「こういう展開でどうよ?」「脳みその再検が必要のようで」  柳


「Right?」

さらりとグラサンダー・ブラック(仮名)のセリフを先読みした男が、涼しげな顔で問いかける。まるでそれが当然であるかのように。

(キレイな面して、言ってくれるじゃねーか。見てろよ、黄色い猿との格の違いを教えてヤるぜ!)

グラサンダーは驚愕と怒気を綯交ぜにしながら、濃い色のグラスに遮られた瞳を鋭く変える。

「ククク、アレをヤるつもりか?」

グラサンダーの内心の声が聞こえたかのように、デコパーチ・ホワイト(仮名)は不敵な笑みを見せながら小さく呟いた。
それにグラサンダーは口の端を吊り上げるだけで答え、足をコートへと進ませながら手にしたラケットの尻を向けて対戦相手へと言い放つ。

「さあて、スムース・オア・ラフ?その予知能力がどこまでか見てやるぜ。
まあ、サーブもコートも俺には関係ねーけどな」

デコパーチは皮肉げに唇を歪めながらコートへと入り、グラサンダーの後ろで構えを取る。
その余裕を見せる二人の態度に、立海応援席は僅かな不安の影に揺れた。




「…………ッ!……」

耐え切れない戦慄が、柳の口から鋭い息と共に逃げた。
体を狙ってくると予想していた柳だが、ファーストサーブからとまでは思っていなかった。
しかも、その軌道上にいたのはレシーバーである仁王ではない。
柳の脇腹を掠めたボール。痛みが続くような当たり方ではなく、感じたとしても一瞬の熱さに過ぎない。

「フォルト!」

ラインを割ったボールに審判のコールが響く。
今のは偶然に過ぎないと呼吸を整えた柳はポジションへと戻った。
だが、再びグラサンダーのサーブは柳に向かう。
咄嗟にかわした柳の胸元をボールは飛んでいく。チッと小さく布の擦れた音が柳の耳に届いた。

「ぁ……、……」

柳の口から小さな声が漏れる。

「0−15!」

柳・仁王ペアのポイントをコールする声に、グラサンダーとデコパーチの含み笑いが混じる。
仁王が軽く肩を叩いていくのすら辛い。狙い澄ましたかのように当てられたボールは柳から不謹慎な熱を引き出していた。




ゲームは一方的に名古屋が優勢だった。
二度のフォルトの後は確実にポイントを取っていくグラサンダーとデコパーチ。その鋭いスマッシュは常に柳の体へと向かう。
普段の柳ならば返せない球ではない。だが、数度のボディアタックにより、柳の体は反射的に半歩分の距離を逃げていた。

「ゲーム名古屋星徳、ブラック・ホワイトペア! 1−0!」

審判のコールの中、1ゲームを落とした柳と仁王は幸村の待つベンチへと向かう。
重い足取りの柳に、仁王の目は不審そうに細められていた。

「参謀、まだ様子見の段階じゃったかのう?」

軽口に混ぜた仁王の気遣いにも、柳は顔を伏せたまま上げることも出来ずにいる。
1ゲームで何度のスマッシュを受けただろうか。既に柳は呼吸を整えるのにも苦労していた。
脇腹、胸、大腿、脹脛に耳……。熱を引き出す衝撃は的確にポイントを責める。まるで柳の体を熟知しているかのように。
汗を拭い、一口の水分で何とか体の熱を収め、仁王にそっと肩を押されてコートへと向かった。
ニヤニヤと笑うグラサンダーとデコパーチが正面から歩いてくる。

「ククク、これだけのギャラリーから視姦されてのプレイはどうだい?」

すれ違いざまに耳元へと囁いたグラサンダーの声が柳の耳を犯していく。
漸く抑えた熱が再び燃え上がり、体を震わせていく。
グラサンダーの言葉を聞き取れなかった仁王は顔に疑問の色を刷いていた。




(おかしい。あまりにも柳の動きが悪い)

D1の試合を黙って見ていた幸村の眉がきつく寄せられた。
確かに、先ほどから続けられるラリーはボディへとボールを集められている。
実際に数度のスマッシュが柳の体に当てられていた。
だが、それは掠める程度のもので、恐怖を煽るものでもなければ、体に不調を感じるようなものでもなかった。

(何があった……、いや、何が起こっているんだ、柳!)

関東大会での試合の報告は受けている。傍で思うよりも情に厚い男だ。だが、今回はそこに問題があるわけでもなさそうだった。

(ん?アレは……)

見つめていたボールの行き先にふと気づく。
コートへと意識を戻した瞬間、柳の体の脇を抜けていったボール。
気づいたのは掠めていったボールの軌道ではない。柳の体が、ボールが通った瞬間に硬直したことだ。僅かに震えてさえいる。よくよく見れば、柳の頬には赤味が差していた。

「ま、まさか……」

幸村の口から言葉が落ちたとき、柳の足元をバウンドしたデコパーチのサーブボールがその背中を駆け上がった。

「――――――っ!……」

声にならない悲鳴を上げ、足から崩れ落ちるように座り込んだ柳に、非情な審判のコールが名古屋優勢を告げた。




(これだけは言いたくないんだけど……)

ベンチに戻った仁王と柳に、幸村は口を開いては閉じるといった逡巡を見せていた。
柳の顔には憔悴の色が濃い。フォローに回っている所為か、仁王も疲労が激しいようだった。
仕方がないと決意した幸村が口を開く。

「柳、この試合が終わったら、真田と抜けていいよ。どうせ真田は補欠だし。
だから、後のことは気にしなくていい。思いっきりイっていいんだ」

幸村の言葉に柳の伏せられた瞼が開く。露を含んだ睫が目元に宝石を飾ったかのように煌く。
小さな安堵を見せて緩ませた頬が、徐々に凄艶な微笑を湛えていく。

「すまないな。後は頼んだ」

芯の通った声で答えた柳に、仁王は漸く合点がいったと頷いた。

「なるほどのう。参謀も人の子っちゅうわけじゃな」

にやりと口の端を吊り上げた仁王が、柳へと向かい親指を立ててコートへ向かう。
それに答えながらコートへと足を進めた柳の体からは、煌くオーラが立ち上っていた。



今、王者の反撃が始まる!!
至高のデータテニスは、更なる高みへと!!


次号、「ば、ばかな!俺のスイートライフ≠ェ返された!?」快楽に身を攀じるグラサンダーが衝撃の新技発動!?





注意 モチロンこれは妄想です。




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