捨てた重さ



草の匂いに、目を覚まし……
人を馬鹿にしているとしか思えん言葉に、憤りを感じ……
傍に転がるバッグを背負い、立ち上がり……


其れから……探し続けていた



唯、一人の者を――――――



王者立海の、副部長としての俺を捨て……
皇帝と呼ばれた、テニスに掛けた俺を捨て……

人としての情を、捨て―――


お前を求める、一人の愚か者のみを残した




故に、撃った

目を赤く変え、鉄扇を振り被った後輩を……
弟の如く慈しんだ、才有る後継の額を……


故に、撃った

目に怒り込め、立ち塞がった同輩を……
敬愛した、誇り高き友の利き腕を……



唯、愚かなる感情の命じる侭に―――




今の俺に、お前に見せられる姿等……無い









只管に走る
木々の間を擦り抜け、草原は忍び……

お前を、此の目にする事だけを求め……



手を染めた紅は『会えぬ』と叫ぶ
浴びた紅が『逢うな』と命じる


だが、お前に見えずして終われぬ




助けを請うた、同胞の声
其れが、俺を責め続けようとも……




お前に逢わずして……
此の命、散らす事等……如何に出来様か

一目で構わん
此処に立ちし時より、望むは唯一つ



お前の、手で……


だが、お前には似合わぬ
決して……紅き玉は飾れぬ



己が許さぬ望みも……捨てた








響く王者の後継の名を、島が吸い込んだ



赤也……
暫し、待て
此の命散らすは、暫し先の事
一目、此の魂に焼き付けたなら……直様、己で方を付けよう
詫びは其方でしてやろう




王者を統べし偉大なる名を、島が呑み込んだ



幸村……
其の腕よりも、尚……
痛かろう
同輩による弟殺しを見た、其の目が……
辛かろう
信じた友が為した裏切りを刻んだ、其の心が……



辛苦の中で逝ったか?
俺を憎み、逝ったか?



責めは負おう
先の世で……

永劫の罰とて、恐れぬ





今、俺の中には……お前だけだ


何処に居る
お前を一目、此の目に焼き付けねば……





俺は、逝けんのだ―――




お前に逢う事等、許されんとしても……




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